障害者手帳は、身体上の障害や精神障害、知的障害などによって、生活や仕事に制約を受けてしまう方に発行される手帳です。
障害者手帳を取得すること自体に抵抗を感じたり世間体を気にしたりする方もおられるかもしれませんが、結論から先にお伝えすると、障害者手帳を取得しておくメリットは税金の減免や補助金・助成金等の利用、公共料金の割引、就労時に配慮してもらえるなど非常に多く、デメリットもほとんどありません。
障害者手帳のメリット部分をしっかり把握して、障害者手帳に対する抵抗をなくしておきましょう。
こちらの記事では、障害者手帳取得のメリット・デメリットを中心に、対象となる方の疾患や障害者手帳の種類、申請方法などについてご説明します。
障害者手帳の対象となる疾患がある方は、前向きに障害者手帳を取得する参考にしてみてください。
障害者手帳を取得する12のメリット
冒頭でもお伝えしたように、障害者手帳を持っていることで、多くのメリットを受けられる機会が出てきます。こちらでは、代表的な12のメリットについてご説明しますが、実際には自治体や企業によっては、障害者に対してさらに手厚い対応をしていることも多くあります。
ご自身が生活する範囲や利用するサービスなどでも障害者に対する対応を確認してみると、さらに多くのメリットを実感することもできるでしょう。
税金の軽減
まず、分かりやすい障害者手帳取得のメリットとして、税金面での優遇があります。障害者手帳を持っていることで、所得税や住民税、自動車税が軽減されます。
所得税と住民税の軽減
納税者本人、同一生計配偶者、扶養家族に障害がある方がいる場合、所得税と住民税の障害者控除を受けることができます。
区分 | 所得税 | 住民税 |
障害者 | 27万円 | 26万円 |
特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
【参考】障害者控除|国税庁
障害者控除の金額は、それぞれ上記の通りになっており、該当者は課税所得を下げることができるようになり、結果的に収める税金が減額されます。
自動車税の軽減
各都道府県によって若干違いがありますが、身体障害者の方に対して、使用する自動車に関わる税金の減免制度があります。
自動車税種別割では、上限45,000円の減免を受けることができますし、自動車税環境性能割では、課税標準額300万円相当分に税率を乗じて得た額 が減免対象となります。
【参考】自動車税環境性能割・自動車税種別割の減免制度のご案内|東京都主税局
その他の障害者が受けられる税の特例
他にも、税金のみに絞っても相続税や贈与税の障害者控除、給付金の非課税など、障害者だから受けられる特例は数多く存在します。
税の軽減だけでも、障害者手帳の対象に該当する方が障害者手帳を作っておくメリットは十分にあると言えます。
【参考】障害者と税|国税庁
公共料金や公共施設での割引
障害がある方が、金銭面で優遇される内容は税金だけではありません。各自治体や企業によっては、料金や運賃などの割引制度をとっており、安く利用できるケースが多くあります。
代表的な障害者割引をあげると、次のようなものがありますので、ご自身が利用しているサービスでも障害者割引が使えないかどうかを調べてみましょう。
- 交通機関(電車・バス・タクシー・飛行機・高速道路など)
- テーマパーク(東京ディズニーランドやUSJでも割引あり)
- 観光施設(動物園・水族館・美術館・博物館など)
- 宿泊施設
- 映画館
- スポーツ施設
- 電話料金・携帯料金
障害がある方に対して割引制度を取っている施設は多く、付添いの方まで含めて1,000円〜半額程度の割引がされていることが多いです。
医療費や補装具の助成金
障害がある方は、通院が必要で医療費が多くかかったり、車椅子や補聴器等の補装具が必要になったりして、人より多くの支払いが生じてしまうケースがあります。
都道府県や等級によりますが、医療費や補装具等の助成金を出してくれる自治体が多くありますので、医療を受ける必要がある方や補装具が必要な方は、障害者手帳の取得も検討しましょう。
医療費の助成金
障害をお持ちの方は、『心身障害者医療費助成制度(通称:マル障)』や『自立支援医療制度』などの医療費の助成制度を利用することができます。
心身障害者医療費助成制度や自立支援医療制度には、医療費の自己負担を軽減してくれるメリットがあります。
補装具の助成金
身体上の障害がある方は、車椅子や補聴器、杖などの補装具が必要になります。市区町村や収入などによって違いがありますが、補装具の購入にかかった費用の約9割を負担してもらえる助成制度の利用も可能です。
住宅改造費の補助金
身体障害がある方がお住まいの住宅で、手すりの設置や階段を解消するなどの改造する場合(いわゆるバリアフリー化)、改造にかかる費用の一部を助成してもらえる制度があります。
住宅改造費の補助金も収入や地域によって違いがありますが、8〜9割助成してもらえることが多いです。
障害者に対する手当
障害をお持ちの方は、税金の軽減や助成金だけでなく、手当としてプラスで金銭を受け取れるメリットもあります。障害者手帳をお持ちでなくても該当する症状に当てはまれば対象になるケースもありますので、お住まいの地域の『障害福祉窓口』などで確認をしてみましょう。
特別障害者手当
特別障害者手当は、心身に重度の障害がある方で、日常生活に介護が必要な方に対して2万5千円〜3万円程度の金額を毎月支給される手当です。金額は数年ごとに変更があります。
生活保護の障害者加算
生活保護を受給されていて障害をお持ちの方は、生活保護費が上乗せされる生活保護の障害者加算があります。
障害の程度にもよりますが、1万〜2万6千円程度の生活保護費が加算されます。
療育手当
知的障害をお持ちのお子様がおられる場合、『特別児童扶養手当』『障害福祉手当』または各市区町村の育児手当を受給できる可能性があります。
例えば、特別児童扶養手当では、20歳未満の障害児を監護する父母又は養育者に対して、1級で月額52,400円、2級は月額34,900円支給されます。
就職でのメリット
障害者手帳があることで、障害者雇用として採用されることができるようになります。一般雇用とは別枠での採用となりますので、障害もあってなかなか仕事に就けないという方でも、就労や新しい職場にチャレンジしやすい環境が整えられています。
障害者雇用として採用されるメリット
繰り返しますが、障害者手帳があることで、障害者雇用として採用され、一般雇用と違う枠での採用がされます。障害があることで不利になっていた就職活動でも、働きたい仕事や会社にチャレンジできる可能性が広がります。
また、採用が決まった後は、『障害者雇用促進法』によって、賃金や福利厚生、教育訓練などでの障害者に対する差別禁止、障害がある従業員に対する体調や障害への配慮・設備投資などが取られます。
会社の取り組みや雰囲気にもよりますが、「障害者だから職場で厳しい態度を取られて働きにくい…」という思いは過度の心配で、実際はサポート体制を整えている会社が多数です。あまりにも悪質な環境であれば、障害者雇用促進法に違反していることも考えられるでしょう。
就労移行支援事業所を利用できる
また、障害がある方は、『就業移行支援事業所』という、通所型の事業所で職業訓練や就職活動のサポートを受けることができます。
就労に向けてのスキル磨きをすしたり、就職面接でのアドバイス・対策などを取ることができます。
就労移行支援事業所の利用料は、前年度の住民税の額によって変わりますが、前年度に非課税だった方は利用料金の自己負担なしでの利用も可能です。
障害者手帳を取得するデメリット
ここまで障害者手帳を取得するメリットについてお伝えしましたが、取得のデメリットについても知っておきましょう。
また、ローン契約や免許取得、生命保険などで障害者手帳があることで契約できないなどのデメリットが出てきてしまうのかもしっかり理解しておきましょう。
大きなデメリットはない
先にお伝えしておくと、障害者手帳を取得する大きなデメリットはほとんどなく、圧倒的にメリットの方が大きいと言えるでしょう。
強いてデメリットをあげるとすれば、後述する申請・更新の煩わしさと「自分自身が障害者であることを受け入れたくない」「差別されそう…」などの精神的なデメリットがほとんどです。
ここまでお伝えした障害者手帳を持っているメリットの方が大きいと考えられますので、対象となっている障害をお持ちの方は、ぜひ前向きに障害者手帳の申請を始めてみるきっかけにしてみてください。
申請や更新にかかる手間ひま
身体障害者手帳と精神障害者保険福祉手帳の手続きでは、医師からの診断書が必要になります。まずは診断を受ける手間がかかり、診断費数千円もかかってきます。
療育手帳では知能指数に関する審査が行われますが、こちらも予約から実施、調査結果報告までの手間がかかります。
すぐに障害者手帳が作れるわけではないという面倒さは、デメリットの1つと言えます。
また、
また、精神障害者保険福祉手帳には2年の有効期限があり、更新の必要があります。身体障害者手帳でも、症状の軽減や変化などによる再認定や等級変更があります。障害者手帳を取得した後も若干の手続きが出てくる点もデメリットと言えそうです。
精神的なデメリット
上でも触れたように、「障害を受け入れたくない」「差別されるのでは…」「世間体が気になる」などの精神的な部分で障害者手帳を敬遠されている方も少なくないでしょう。

【参考】障害者手帳|厚生労働省
厚生労働省によると、令和2年で障害者手帳を持っている方は、全国約700万人います。愛知、埼玉などの東京、大阪に次ぐ人口の県と同じ程度の人数なので、決して珍しいものでなはいと考えることができるでしょう。
それでも身近に障害者手帳を持っている人と会ったことがないのであれば、それは障害がある本人が言っていないだけで、障害者手帳の有無を他人が探る術はないということとも考えられるでしょう。
職場で障害者手帳を持っていると知られる可能性
上記で障害者雇用のメリットをお伝えしましたが、障害者雇用で採用された場合、担当者に障害者手帳を持っていることが知られてしまいます。
しかし、『障害者雇用促進法』によって、障害者への差別が禁止されていますので、むやみに他人に障害者手帳を持っていることを知らせる行為が違反に該当するとも考えられます。
障害者のデメリットに関する誤解
障害者手帳があることで普通であれば利用できるサービスが利用できないのでは?という心配をしている方も多いことでしょう。
代表的なものに保険・ローン・免許などがありますが、結論から言うと、障害者手帳の有無で利用できなくなるのではなく、症状や各社で決めている基準によって審査等が通らない可能性は考えられます。
ですので、障害者手帳を取得する直接的なデメリットにはならないと言えます。
保険の加入
保険の加入には、過去の症状や診断、通院歴などの告知義務があります。告知すべき内容を伝えずに保険に加入した場合、告知義務違反によって適した保険金を受け取れないことがあります。
過去の診断や症状、通院歴などが加入できない理由にもなり得ますが、探してみれば障害がある方でも加入できる保険商品は多くあります。
ローンの審査
ローン審査の可否も障害者手帳の有無が直接的な理由になることはありません。障害があっても働いて収入を得ている方も多くいますので、安定した収入さえ証明できれば大抵のローンや借入はできるでしょう。
ただし、住宅ローンの場合、『団体信用生命保険(団信)』と言って、万が一の死亡時に住宅ローンの残高が0円になる保険に加入する必要があります。団信にも告知義務があり、通院を続けるなどの障害が重い方は加入できずに結果的に住宅ローンが組めないことも起こり得ます。
一方で、どうしても資金が必要な方は、障害がある方に対する貸付や生活保護などの国の制度もありますので、前向きに検討されてください。
免許取得
障害者手帳があるからと言って、自動車運転免許が取れなくなることはありません。
ただし、運転免許では、障害がある方の状態によっては特別な免許手続きが必要になるので、手続きや更新をする必要も出てきます。
障害者手帳の対象者と申請方法
最後に、障害者手帳の申請方法についてお伝えします。各障害者手帳の対象の疾患がある方は、医師の診断や申請窓口への相談など、次の行動を取るための参考にしてみてください。
障害者手帳の種類と対象者
障害者手帳は症状によって種類が変わり、全部で3種類があります。メリットに大きな違いはありませんが(例えば補装具の助成金が受けられるのは身体障害がある方が大半になる)、必要書類や手続きの手順などが変わりますので、ご自身がどの障害者手帳で申請するのかを知っておきましょう。
手帳の種類 | 対象となる方 |
身体障害者手帳 | 身体に障害がある方に対して交付される障害者手帳 |
精神障害者保険福祉手帳 | 精神障害によって日常生活や社会生活に制約がある方に対して交付される障害者手帳 |
療育手帳 | 知的障害がある方に対して交付される障害者手帳 |
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3つの障害者手帳の種類|それぞれの対象者と取得方法、取得のメリット
申請窓口
何度かお伝えしていますが、障害者手帳の手続きは、各市区町村の『障害福祉窓口』で行うことになります。
障害者手帳取得に必要な書類
自治体や手帳の種類によって多少の違いがありますが、障害者手帳を取得するためには以下の書類が必要です。
- 診断書(身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳)
- 本人確認書類(マイナンバーカード・住民基本台帳カード・パスポートなど)
- マイナンバーカード(精神障害者保健福祉手帳では必須)
- 本人の写真(縦4cm×横3cm)
- 印鑑
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【障害者手帳の申請に必要なもの】各手帳の必要書類と手続きの流れ
診断書の取得が必要|身体障害者手帳と精神障害者保健福祉手帳の場合
障害者手帳のうち、『身体障害者手帳』と『精神障害者保健福祉手帳』は、申請する際に医師から対象となる疾患での診断書が必要になります。先に障害福祉窓口に相談に行っても問題はありませんが、いずれ必要になるため、まずは医療機関を訪れて診断を受けることも考えておきましょう。
担当窓口で判定を受ける|療育手帳の場合
その一方で、療育手帳は、知的障害の判定を受けたのち、判定結果に応じて手帳の発行や等級が決まります。児童相談所や障害福祉窓口に問い合わせを行い、判定を受ける準備を進めていきましょう。
まとめ
障害者手帳を取得するメリットは数多くあり、主に金銭的メリットと仕事に関するメリットがあります。
金銭的メリット | ●税金の軽減・免除 ●公共料金等の割引 ●医療費・補装具の助成金 ●バリアフリー化の補助金 ●手当や生活保護の加算 |
就労時のメリット | ●障害者雇用としての採用 ●就労移行支援事業所の利用や相談 ●採用後の会社からの配慮 |
その一方で、障害者手帳がある直接的なデメリットはなく、精神的な部分と手続きの面倒さくらいです。
障害者手帳の対象となる症状をお持ちの方は、ぜひ前向きに障害者手帳を取得する参考にしていただければ嬉しく思います。